SGCアートコレクション
vol.7
山内祥太
SHOTA YAMAUCHI
現代美術家
日中は、奇怪な形になった鳥が石化した森の中を飛びかい、結晶化した河のほとりには、宝石をちりばめたような鰐が山椒魚のようにきらめいていた。夜になると、光り輝く人間が木立のあいだを走りまわり、その腕は金色の車のよう、頭は妖怪めいた冠のようだった。・・・・・・J.G.バラード「結晶世界」
SGCアートコレクション第七弾は、この書き出しから始まるSF小説に触発され、金という素材を組み合わせながら、彫刻と映像との狭間で新たな表現に挑んだ現代美術家の山内祥太。金沢美術工芸大学にて彫刻を専攻し、卒業後は東京藝術大学大学院で映像による表現に取り組んだ山内は、新しいテクノロジーに、人間らしく生々しい身体性、複雑で矛盾するような感情や感覚を組み合わせることで生まれ得る表現に一貫して取り組んでいます。
代表作の一つである「舞姫」は、TERRADA ART AWARDで金島賞を授賞した後、オーストリアで開催されるメディアアートの祭典、アルス・エレクトロニカで紹介されるなど、国内外でも高く評価され、活躍の場を大きく広げます。そして、SGCアートコレクション第七弾となる「結晶世界」は、小説の世界が金を身に纏って立体的に展開する、山内の新境地を切り開く作品となりました。
結晶世界

本作はJ.G.バラードの「結晶世界」の神秘的かつ思弁的な世界から影響を受け、制作した全く別次元の「結晶世界」です。テーマは「中庸(Golden Mean)」です。それは生と死や静と動といった対立する二項のどちらでもない状態にあり続けることを意味します。






映像作品では3DCG表現を用いて、世界の始まりと終わりの物語を描いています。私たちが生きる世界もそうであるように一見関係のない事象が姿、形を変えて関係し合い大きな循環を生み出します。




また彫刻作品では映像にも登場する2 名の人物と蛇が金に侵食され、結晶化が始まる様子を立体化しています。男性像は金化していく身体を拒むように手を伸ばし、対照的に女性像は金化していく身体をどこか受け入れているような面持ちです。これらのドラマが「金」という物質を座標の中心点として交差し合い、互いに影響し合います。
バラードの「結晶世界」では、森や人間の身体が結晶に覆われる様を一種の仮死状態(生きても死んでもいない)として描かれ、それが新たな幸福の形として示唆されます。本作でも、富や財産を象徴する「金」という伝統的な幸福観ではなく、「金」の中庸的価値に幸福を見出すことをテーマに制作を行いました。
(山内祥太)
ACK特別プログラム
「結晶世界 The Crystal World」

平安神宮の大鳥居を窓から一望できる、通常非公開の京都市京セラ美術館の貴賓室にて開催された今回の展示のタイトルは、J・ G・バラードの小説『結晶世界』から名付けられました。






カーテンに印字された小説の書き出しを読んで中に進むと、その世界を独自の視点で展開した「結晶世界」の映像作品と、その映像に登場する男と女、そして蛇に純金が散りばめられた彫刻作品が立ち現れます。映像の中の世界から現実の世界に飛び出し、様々な職人との協働によって制作された作品からは、自分の領域を飛び越えて未知なる何かに触ろうと意識しながら、その意識を越えた表現を手探りで作品に取り入れようする作家の姿勢が垣間見えます。



また、映像の中の象徴的な一場面が切り取られた写真作品にも職人によって金箔が施され、これら複数のメディアが組み合わされた作品は貴賓室の内装やSGCのコレクションの調度品と相まって2024年のACKでのみ鑑賞できる特別な空間を構成しました。
作品についてはこちらからお問い合わせください。
お問い合わせ
山内祥太 SHOTA YAMAUCHI
現代美術家
1992年生まれ。東京藝術大学映像研究科メディア映像専攻修了。自己と世界との関係性や、現実と空想の裂け目といったものをさまざまな方法で明らかにしようと試みてきた。映像、彫刻、VR、パフォーマンスなど表現メディアは多様で、身体性の生々しさや人間らしい感情と現代のテクノロジーを対峙させ、作品制作を行う。 主な展示歴に「MAMプロジェクト030×MAMデジタル:山内祥太」森美術館(東京/2022)「アルスエレクトロニカ・フェスティバル 2022」ヨハネスケプラー大学(リンツ、2022年)「水の波紋展2021:消えゆく風景からー新たなランドスケープ」ワタリウム美術館(東京/2021)など。主な上演作品に「匂いのモニュメント 忘れ去られたエロス」山口情報芸術センター[YCAM](山口/2024)など。主な受賞歴にTERRADA ART AWARD 2021 金島隆弘賞&オーディエンス賞、第 25 回文化庁メディア芸術祭アート部門優秀賞など。